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2.忘却 -7- [硝子の森]

 果て無くも思える荒野の只中で。
 防塵用のマントに身を包み、黙々と足を進めていた青年がふいに立ち止まって声をあげた。
「どうかしたのか? そんなところに突っ立ってると、干からびて死ぬぞ」
 そう言う視線の先には、旅服には見えない褐色のワンピースを纏った女がいる。年の頃20歳前後だろうか。その女は声に気付いて、くるりと勢い良く振り向いた。
 肩よりも少し長い、アッシュブロンド。
 何よりも印象的な灰色の薄い瞳。
 青年は、はっとしたように息をのみ、彼女を凝視した。
「道に、迷ったの。わたし、何故か、この荒野がとても好きで……。度々、来るの。でも、今日は一緒に来た人とはぐれてしまって」
「あんたな、そんな呑気な事言ってると死ぬぞ? まったく、こんなところで……」
 呆れた様子で吐き捨てながら、青年が無遠慮に彼女に近づく。そこで、彼は不思議な既視感を覚えた。
 女のほうも、怪訝そうな表情を浮かべて彼を見ている。
「ねぇ、以前にどこかで会ったことないかしら?」
「あぁ……。俺も、今、そう思っていたんだ」
 女は、彼の黒眼に映った己の姿を確かめるかのように、青年を見詰めた。
「わたし、リシュィっていうの、あなたは?」
「ハルァ」


 何故なんだろう。
 その名前だけを耳にするだけで、これほどまでに胸が痛いのは。


「とにかく、こんなところに一人なんて自殺行為だ。どこの集落に住んでいる? 送ってくから」
 青年は、やはり無遠慮に彼女の細い腕を掴んだ。
「……っ!」
 その瞬間、心を満たすものは形容し難い感情の渦で。
「不思議ね」
 女--リシュィが呟いた。
 そして、涙が溢れる。次から次へと、止めど無く溢れていく。
「どうしてかな」

 荒野の只中。
 立ち尽くす見知らぬはずの2人。
 淀んだ風が砂塵を孕んで、肌に痛い。

 青年は、己の防塵マントの中に、そっと彼女を招きいれた。
 そんな行動にさえ、覚える既視感に。2人は恐怖にも似た感情を覚える。
 けれども……まるで、捕らわれてしまったかのように、吸い寄せられた。手をとった互いの瞳から、決して目を反らせない。

 根拠のない、予感。
 喜びと、哀しみの、予感--。




「出会わなければ、良かったね……」




 今、ここで生きて。
 今、ここで想って。
 忘れてしまった記憶が、悪戯に見せる夢を。
 そっと、そっと、抱きしめて。

 繰り返す出逢いと別れと。
 --忘却と。

 新たに生まれていく時間の中で。
 忘れてしまった、出会いと別れ。



 けれども、わたしはここにいるよ。
 ここで生きている。ここであなたを想っている。
 忘れきれなかった、想いを抱え。
 ただひたすらに、息を潜めて。



 たとえ、幾度、繰り返しても。
 その先に、新しいはじまりがみえるから--。





第2話 -完-

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