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2.忘却 -6- [硝子の森]

 ぼんやりと座り込んでいる少女の顔を、銀色毛を持つ狼が心配そうに覗き込んだ。
「リュヌ」
 少女はその大きな黒い瞳から、止め処なく大粒の涙を零している。
「大丈夫。ただ、あんまり、切なくて……」
 リュヌの顔を包むように己の両手をあてがいながら、彼女は儚い笑みを見せた。
「『忘れる』ってね、無慈悲で不平等な神様がたったひとつ私達にくれた平等な贈り物だと思うの。忘れなくちゃ、生きていけないこと、あるもの。でも……でもね、忘れないことが幸せってことも、あるんだわ。きっと、あるの」
 銀狼の蒼い瞳が、僅かに揺れる。

 忘れることが、神様の贈り物?
 ならば……決して、忘れられない、君は?
 記憶そのものである、君は……?

 けれども、彼はその想いを彼女に伝えることはしない。
 銀狼は、ネージュのごく近くに寄り沿い、彼女の涙を優しく舐めとった。
「あのね、リュヌ。あの子--ハルァの代償。彼の幸せはね、忘れないことだったの。彼女の記憶を、持ち続けること。彼女を想い続けること。それが、彼の幸せだったの。だって、私……、彼の記憶をもらった。ハルァとリシュィの、優しい記憶を貰ったの」
 リュヌの身体を抱きしめて、ネージュは肩を大きく震わす。
「古今東西。繰り返されて来たことだよ。栄える前、栄えた時、そして滅びた後も。出会いとか別れとか。ねぇ、本当に馬鹿みたいに、同じことをねぇ」
 鈴を鳴らしたような涼やかな彼女の声に、涙の色が滲んでいる。
「ねぇ? 人間って、馬鹿だよね」
 リュヌは黙って、身じろぎもせずに彼女の声を聞いていた。
「リュヌ」
 長い、長い時間。彼女の鳴咽が止まるまで、彼はそのまま動かない。


 悲鳴のように、風が廃虚をすり抜けていった……。



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