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2.忘却 -4- [硝子の森]

 そして、彼女はその腕で彼に精一杯の強さでしがみつく。
「リシュィ、愛してる」
「うん。……ありがとう。わたしも、よ」

 2人はそっと互いの身を僅かに離し、見つめ合った。
 しばらくそのまま動かずにいた後、どちらからともなく身を寄せ合い、唇を重ねる。
 それは、恐らく、彼らにとって最後の口付け。


「……出会わなければ、良かったね……」


 別れ際に、リシュィがそう呟いた。
 出会わなければ、得られなかった。この幸せも。
 今は、ただ--別れの辛さを引き立てるものに過ぎないから。大きな抱えきれない幸福の分だけ、別れの傷が深まるから。
 別々の場所、別々の相手。
 自分達は、それを選ばざるを得なくて--。
 諦めきれるものではないけれども、他に選べる道もないのだから。

 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 どうして、こんなに理不尽なのだろう。
 どうして、--。
 誰にともなく投げかけられた問いは、永遠に答えを返さない。

 わかってはいるのだ。選ばなかったのは、自分達だと。何も考えず、遠い土地へ旅立てば良かったのかもしれない。
 けれども、この荒野を越えて行く勇気も、力もなかった。何も、選べなかったのは、……自分自身。

 それなのに。


「どうして、出会ってしまったんだろう。どうして、あなたを愛してしまったんだろう」


 大粒の涙を、灰色の瞳から幾粒も零して、彼女が言った。
 心が捻じれるような言葉。
 それが、心から離れない。


「リシュィ」


 彼女の温もり。
 彼女の声。
 瞳。唇。その仕草。
 その全てが、脳裏に灼きついて離れない。
 密かに。けれども、確実に。
 それはハルァの心を侵食して、壊していく--。


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