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2.忘却 -1- [硝子の森]

 忘却は、罪。
 そう、言われる。

 忘却は、赦し。
 そう、叫ぶ。--声の限りに。


 忘れたくない。
 忘れてしまいたい。
 矛盾した、けれども、心の底からの2つの願いを。
 誰か、叶えてくれるのなら。
 僕は、僕の全てを捧げてもいい--。




 瓦礫の山の頂。
 そう表現するのが相応しい、大小様々な無機質な破片の山の上に、一人の少女が佇んでいる。
 淀んだ光が滲み出す灰色の空を見上げ、彼女は小さく嘆息を吐き出した。
「つまらないな。空の色は変わらないし。風の香りも変わらない。記憶が見せる情景には、様々な空があるのに」
 ねぇ、リュヌ--と、彼女は傍らに寄り添う銀色の狼に、同意を求めるかの様に小首を傾げてみせた。
 銀狼は僅かに喉を鳴らしてそれに応え、蒼色の瞳で少女を見上げる。少女はそれを受け、夜闇を切り取ったかの様な漆黒の瞳を和らげた。
「見てみたいな。記憶の断片じゃなくて、実際に私の眼で……。壊れてしまう前の、この世界。綺麗なものが沢山あった、この世界。いっそ、栄える前の世界のほうが、綺麗かしら?」
 くすくす笑いながら、彼女は銀狼の頭を撫ぜる。銀狼は眼を閉じて少女のなすがままだった。
 決して、清浄とは言えない風が、2人の間を吹き抜けて行く。

 汚れてしまった、世界。
 壊れてしまった、世界。
 もう、戻らない過去。
 贖うように、残された大地にしがみついて生活する人々。
 過去の己達が犯した、取り返しのつかない大罪のために。

 ふいに、少女がその場にしゃがみこんだ。
 身に纏う、淡い桜色に染められたワンピースの長い裾が、瓦礫の上にふわりと広がる。手の甲を隠すような広がりのある長い袖口に、瓦礫の汚れが付着するのも構わず、彼女は華奢な指先で地面を探った。
 細かい瓦礫の屑をかきわけた処に、淡い緑の植物が顔を見せる。
「こんな処で、頑張っているよね」
 誰にともなく、少女が呟いた。
 諦めない、生命。
 この世界が、完全なる再生を迎えることは、もう、きっと、ないのだろうとは思うのだけれど。
「でも……もしかしたら、見られるのかなぁ? エメラルドの森とコバルトブルーの海。そして、灰色じゃない空を。私達、長生きだけが取り柄だしね?」
 銀狼は後ろ足をおって、少女の隣りに座り込む。
「綺麗な世界を目にしたら、ヒトはまた……争い、奪い合うのかな」
 狼の背筋を撫ぜながら、少女--ネージュ・ノワールは、そう、虚ろに呟いた。

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