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1.はじまりにあった存在 -7- [硝子の森]

「何か言いたそう」
 くすくすと笑いながら、ネージュは銀狼の鼻っ面を指先で軽く撫ぜた。
 背を向けて歩いて行った青年の後姿は、いつの間にか視界から消えている。
 少女はしばらく笑いやまないまま、狼の蒼い瞳を見つめていた。それからおもむろに、真剣な表情になる。
「わかっているよ」
 そして、再び浮かべた笑みは酷く曖昧なものだった。
「彼は、私の後継になる人だよね。彼の願いを叶えれば、私の役割はおしまい」
 ネージュはそっと地に膝をつき、銀狼の首を掻き抱くようにする。
「考えていたのよ? 彼を見ながら……」
 銀狼は静かに、呼吸の音さえを潜めて彼女の言葉を待った。
「私が消えたら、あなたは? あなたの存在はいつまで続くのだろうって……」
 彼女は固く眼を閉じて、銀狼の首にまわした腕に力を込める。
「私はたくさん、間違えたよ。間違えて、あなたの命すら奪ってしまった。だからね、今度こそ間違えない。あなたとずっと一緒にいるよ」
 囁くような声は、何故か悲鳴のようだった。シンと鎮まり返る空気の中、少女の声が響いてゆく。
「あなたが存在する限り、ずっと。私は『記憶の欠片』であり続けるよ」
 リュヌは躯の力を抜いて、ネージュの肩に己の首の重みを預けた。


--永遠に続く未来でもいい。

もう、決して。
二度と、あなたをひとりにはしないから……。




それは、まるで--秘密の庭。
現実からは遠い場所。
夢を見るように、緩やかに流れてゆく。
ふたり。
静かに、時間を漂う。


忘れないで、たくさんの記憶を--。
消えてしまうなら、痕を残して--。


その翼、裂けて朽ちても。
忘れないで--。

最期に辿り着いた--秘密の庭を…………。





第1話 -完-

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